2009年07月26日

絹市に切断された女の足が‥‥‥

国定忠次外伝・嗚呼美女六斬 第1部―7.境宿の絹市」より絹市に切断された女の足が‥‥‥


「ねえ、あれ、何かしら」とおちまが通りの向こうを指さした。

 この店の娘、おちまは小柄で何もかも小さかったが、うまくまとまっていて可愛らしい。研師の音吉といい仲で、斜(はす)向かいにある太物屋の娘、おゆみの恋敵(こいがたき)だった。

 おちまが指さす方を見ると真向かいにある煙草屋と右隣にある絵師、金井研香(けんこう)の家の間に筵(むしろ)にくるまれた何かが置いてある。あちこちにゴミが散らかっているので、よく見なければ気づかないが、その筵は何かがくるんであるように見えた。

「誰かの忘れ物ね」とお政が言った。

「きっと、絹糸よ。あんなとこ置いといたら盗まれちゃうわ」と言うなり、お美奈は筵の所に飛んで行った。

「おい、ちょっと待て」と久次郎は止めたが、おちまもお栄も飛び出して行った。

「どうしたの」とお政が久次郎の顔を見た。

「中身は長脇差(ながどす)に違えねえ」と久次郎はお政に言った。

「長脇差?」

「誰が何の目的があって、あんなとこに隠したか知らねえが、ありゃア長脇差に違えねえ」

 久次郎も店から出て、通りを眺めた。さっきまでの喧噪が嘘のように、いつもの宿場に戻っていた。高札場の回りで、子供たちが追いかけっこをして遊んでいる。

「キャー!」とお美奈たちの悲鳴が響いた。

 久次郎が三人を見ると娘たちは顔を背けるようにして筵を指さしていた。悲鳴を聞いて近所の者たちが何事かと顔を出した。

 久次郎は娘たちに近づくと筵を見た。筵の間から、白い足の裏が覗いていた。

 そんな馬鹿な、と筵を開いてみると根元から切られた足が転がり出て来た。切り口には血の混ざった塩が固まり、半ば腐っているのか異臭を放っている。

「キャー!」と久次郎の後ろから覗いていたお政が悲鳴を上げた。

 おちまが口を押さえながら家の方に帰って行った。

 久次郎は鼻をつまむと切られた足をよく観察した。変色し変形もしているが女の左足に間違いない。何かで打たれたのか、ミミズ脹れのような傷が何本もあり、足首を縛られていたのか縄の跡が残っていた。

 悲鳴を聞いて、やじ馬たちが集まって来た。女たちの悲鳴が何度も響き、下町で休んでいた伊三郎の子分たちもやって来た。

「どいた、どいた」と人をかき分け、転がっている左足を眺め、「何でえ、こりゃア」と言ったきり、しばらく、声が出ないようだったが、久次郎に気づくと、「おめえは百々一家の野郎だな。何で、こんなとこにいやがるんでえ」と怒鳴った。


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posted by 酔雲 at 22:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説の中の衝撃的な場面 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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