2009年06月29日

艦砲弾が炸裂する中を死に物狂いの彷徨

沖縄二高女看護隊・チーコの青春 第3部―1.真栄平」より艦砲弾が炸裂する中を死に物狂いの彷徨


 海の方を見るとずらりと並んでいる敵艦の大砲から次々と黒い煙が上がっていた。腕時計を見たら、もう六時になっていた。

 それからはもう死に物狂いの彷徨(ほうこう)だった。千恵子たちの回りに艦砲弾が次々に落ちて来た。ヒュッと音がしたかと思うと、すぐにバーンと近くで炸裂した。体を伏せる間もなく、泥をかぶり、破片がシュルシュルと音を立てて、すぐ側を飛んで行った。目の前を歩いていた負傷兵が轟音と共に吹き飛び、千恵子の側の水溜まりに落ちた大きな破片がジュッと音を立てた。こんなのが当たれば腕も足も首も、もげてしまうに違いない。

 もう、いやだ。こんな恐ろしい思いをするのなら、病院壕にいた方がよかったと何度も後悔した。泥の中に伏せては歩きの繰り返しで、ちっとも前に進まなかった。やがて、暗くなって、照明弾が次々に打ち上げられた。照明弾が上がっている時は明るくて道もわかるが、照明弾が消えてしまうと、月も星もない真っ暗闇になってしまい、方向さえもわからなくなってしまう。艦砲射撃はやむことなく、容赦なく千恵子たちの回りに落ちていた。どこか安全な壕に潜りたいと思っても、初めての土地なので、どこに何があるのか、まったくわからず、ただ、神様に無事を祈りながら身を伏せているしかなかった。

 続けざまに艦砲弾が千恵子たちの回りにいくつも落ちて来た。伏せていて泥をかぶり、慌てて体を探って無事を確認して、「ねえ、大丈夫だった」と千恵子は小百合と悦子に声を掛けた。

 返事がなかった。二人共、やられちゃったのと恐ろしくなり、千恵子は大声で、小百合と悦子の名を呼んだ。あちこちに落ちている艦砲弾の炸裂する音しか聞こえず、二人の返事はどこからも返って来なかった。真っ暗で何も見えず、千恵子はその場から動かずにじっとしていた。さっきまで、しっかり手をつなぎながら歩いていたんだから、そんなに遠くに行くはずはない。きっと、やられてしまったんだわ。千恵子は一人泣きながら泥の中にうずくまっていた。

 照明弾が上がって明るくなった。千恵子の後ろ十メートル位の所に大きな穴があいていた。それを見ると千恵子は悲鳴を上げながら駈け出した。

 突然、「静かにしろ!」と怒鳴られた。見ると武装した兵隊が三人、ガジュマルの木陰に隠れていた。剣のついた銃を千恵子に向けて、「電波探知機に引っ掛かる。静かにしろ」と怖い顔して睨(にら)んでいた。

「すみません」と千恵子は謝った。

 電波探知機というのは病院壕にいた時、入院していた患者さんから聞いていた。よくわからないけど、米軍は色々な最新兵器を持っていて、人の話し声を探知して、そこに集中攻撃をかけると言っていた。

 また真っ暗になってしまい、千恵子はその場にしゃがみこんだ。照明弾が上がり、ガジュマルの木の方を見ると兵隊たちの姿はなかった。千恵子はフラフラとガジュマルの木の下に行くとその木陰に隠れた。

 恐ろしさで体中が震えていた。口も震えて歯がガチガチ音を立てていた。止めようと思っても止められなかった。

 どうして、小百合と悦子はあたしを置いて逝(い)ってしまったの。たった一人で、これからどうしたらいいのよ。いっその事、あたしも死んでしまいたい。艦砲弾に当たって一瞬のうちに死んでしまいたい。千恵子は自分の体がバラバラに吹き飛ぶのを想像した。首がもげて脳みそが流れ出し、手足ももげて、はらわたもバラバラになって飛び散った。いつか、病院壕の前で見た光景と重なって、あんな死に方はいやだと首を振った。青酸カリを飲めば、もっと楽に死ねるのかもしれない。古波蔵さんにもらってくればよかったと思ったけど、真栄平まで行けば古波蔵さんに会えるかもしれないと考え直した。古堅さんもいるかもしれないし、佳代やトヨ子、初江や晴美もいるに違いない。頑張って真栄平まで行くのよと自分に言い聞かせて、千恵子は艦砲弾の炸裂する中に飛び出した。

 長かった夜が明け、辺りはシーンと静まり返っていた。空は曇っていて、また雨が降りそうな雲行きだった。


生と死・いのちの証言沖縄戦  戦場(いくさば)の童(わらび)  オキナワいくさ世のうないたち  飢えと病の南方戦線  ルソン島・野戦病院全滅の記  


posted by 酔雲 at 10:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説の中の衝撃的な場面 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。