2009年06月20日

樹木に飛び散った内蔵や手足が‥‥

沖縄二高女看護隊・チーコの青春 第2部―18.破傷風患者と脳症患者」より樹木に飛び散った内蔵や手足が‥‥


 まもなく敵の攻撃がやむ時刻、千恵子と小百合は和田上等兵を埋葬地に運ぶために、第三坑道の入口近くに来ていた。夜が明けて、外はもう明るくなっていた。

 第三坑道の入口前には前線から送られて来た負傷兵が五、六人、戸板に乗せられたまま並んでいた。手術室のある上の壕の前は勿論の事、どこの壕の前にも負傷兵は並んでいた。危険を冒して夜中に負傷兵を運んで来ても、病院壕には入れてもらえず、困り果てて壕入口前に置いて帰ってしまうのだった。毎朝、敵の攻撃がやんでから衛生兵たちが広場にある擬装網の下に運んでいた。

「今日も暑くなりそうだな」と誰かが声を掛けて来たので振り返ると矢野兵長だった。

「もう暑くてたまりませんよ」と言いながら千恵子は顔の汗を拭いた。煤(すす)で黒くなっている顔を矢野兵長に見られたくなかったけど、もう手遅れだった。

 矢野兵長は奥の坑道にある寝台で寝ていたが、そこが第九病棟になってしまい、上の壕に移動した。上の壕も病棟になると、そこも追い出されて、衛生材料などの倉庫になっている壕に移ったらしい。千恵子たちが奥の方に寝台を詰めた後は、第一坑道に移って来て、時々、井田伍長や古波蔵看護婦と一緒に酒を飲んでいた。勤務中に病院壕にいる事は滅多になく、どこかに行っているようだった。

「矢野兵長さんが手伝ってくれるんですか」と千恵子は毛布にくるまれた遺体を示しながら聞いた。

「そうだよ。俺じゃ頼りないのか」

「いえ、そうじゃなくて、兵長さんが来るなんて珍しいので」

「なに、もう兵長だの軍曹などと言ってる場合ではなくなったよ。衛生兵だろうが武器を持って前線に行かなくてはならない状況になっているんだ。まったく、ひどい有り様だよ。今度こそ、二十七日の日本軍の勝利を祈るばかりだな」

「二十七日に総攻撃があるんですか」と小百合が目を輝かせて聞いた。

「多分な」と矢野兵長はうなづいた。「五月二十七日は海軍記念日なんだよ。今度こそ、連合艦隊が出撃して来るだろう」

 千恵子と小百合は指折り数えた。あと九日だった。あと九日間、頑張ればいいんだと思うと急に力がわいて来て、知らずに笑いがこぼれて来た。

「危ない、伏せろ!」と入口にいた歩哨兵が怒鳴ったのと同時だった。物凄い爆発音が響き渡り、千恵子は爆風で飛ばされた。

 辺りが急に静かになった。千恵子は顔を上げた。

 小百合が壁に寄り掛かったまま両足を投げ出して座り、目を見開き、口をポカンと開けていた。爆風を飲んでしまったのかと千恵子は慌てて側まで行くと小百合の体を揺すった。小百合は気が付いたかのように千恵子を見ると入口の方を指さして、口を動かした。

 誰かが千恵子の背をたたいた。振り返ると矢野兵長が口をパクパクさせていた。小百合を見ると小百合も口をパクパクしている。もしかしたら、耳が聞こえなくなってしまったのかと千恵子は首を振った。やがて、耳がキーンと鳴って聞こえるようになった。

「おい、大丈夫か」と矢野兵長が言っていた。

「チーコ、チーコ」と小百合が呼んでいた。

「大丈夫、大丈夫よ」と千恵子は言ってから、我が身を見回した。血は出ていないし、痛みもどこにもなかった。助かったとホッと溜め息をついた。

 第三外科の比嘉看護婦と照美がポカンとした顔して立ち尽くしていた。千恵子も入口の方を見て、愕然(がくぜん)となった。

 負傷兵が並んでいた所が直撃されて、大きな穴があいていた。そこにいた負傷兵たちの体はバラバラになって飛び散っていた。ちぎれた手や足が転がり、脳みその出た頭も転がっている。回りの樹木にも飛び散った内蔵や手足が引っ掛かっていて、血がポタポタと垂れていた。まるで、地獄絵そのものだった。

「あたし、見てしまったのよ」と言いながら小百合が泣いていた。千恵子は背中を向けていたけど小百合は入口の方を向いていたので、負傷兵がやられる瞬間を見たのかもしれなかった。

「小百合、大丈夫よ。あたしたちは無事だったのよ」千恵子はショック状態の小百合を慰めた。

 やがて、敵の攻撃がやんで静かになった。矢野兵長と歩哨兵が外に出て行った。何げなく天井を見た千恵子は恐ろしさで身震いした。艦砲弾の鋭い破片がいくつも天井に突き刺さっていた。


彗星特攻隊  予科練の空  戦場体験  一兵士の記録  東京を爆撃せよ  


posted by 酔雲 at 09:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説の中の衝撃的な場面 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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