2008年12月25日

津島の遊女、ツバメ姉さんの台詞

藤吉郎伝―若き日の豊臣秀吉 3.蛤」より津島の遊女、ツバメ姉さんの台詞


お寺を飛び出した藤吉(後の豊臣秀吉)は祖父のいる清須城下で、手に職を付けようと様々な職業を経験しますが、どれも長続きしません。祖父に連れられて津島に行き、叔父の塩屋に奉公しますが、そこも飛び出して、蛤売りになります。


 藤吉も十四歳になり、多少、色気づいて、人並みに女に興味を持ち始めていた。

 自分ではもう一人前の男だと思っていても、はた目から見れば、身なりの小さい藤吉は十歳位の子供にしか見えなかった。花街の女たちも、藤吉を子供だと思って気を許して、からかって遊んでいるだけなのだが、藤吉は毎日、花街に行くのを楽しみにしていた。

「あら、また、お猿さんが蛤を売りに来たわ」と、ここでも猿呼ばわりだった。でも、藤吉は怒らなかった。猿と呼ばれると、わざと猿の真似をしてお道化て見せ、女たちを喜ばせていた。

「今日は大きな蛤が入りました。うまいですよ。みんなで召し上がって下さい」

「お猿さん、あたしの蛤もおいしいのよ。召し上がる?」とツバメ姉さんが笑いながら言った。

「お姉さんも蛤を売ってるんですか」と藤吉は不思議そうに聞いた。

「そうよ」とツバメ姉さんは身をくねらせた。

「まあ、大きな蛤だこと」とヒバリ姉さんが顔を出した。「でも、スズメちゃんには負けるわね」

「お姉さん、ひどいわ。あたしのそんなにも大きくないわよ」とスズメ姉さんは口をとがらせた。

「いいえ。あたし、知ってるのよ。スズメちゃんのは大きいって評判よ」

 女たちはキャーキャー騒ぎながら蛤を手に取って、あたしの蛤より大きいだの小さいだの言っていた。藤吉には何の事かわからず、きょとんとして話を聞いていた。

「そうだわ。お猿さんに比べてもらいましょうよ」とヒバリ姉さんが言った。

「そうよ。それがいいわ」とツバメ姉さんが賛成した。

「やだわ、お姉さん、そんなの見せられないわ」スズメ姉さんは反対したが、

「相手はまだ子供よ。ほら、この子ったら、何もわからないのよ」とツバメ姉さんが言うと、スズメ姉さんは藤吉の顔を見つめ、「そうね、いいわ」とうなづいた。「絶対に、あたしの方が小さいんだから」

 スズメ姉さんは大きな蛤を手に取ると藤吉に手渡し、着物の裾をまくり上げると、藤吉の目の前で股座(またぐら)を広げて見せた。

「さあ、あたしのとその蛤どっちが大きい」

 藤吉はスズメ姉さんの行動に驚いたが、初めて見る女の股座にじっと見入った。姉さんたちが言うように、それは確かに少し口を開いた蛤に似ていた。こんな物が女の股座に隠れていたのかと藤吉は不思議に思った。姉や母の裸は見た事あっても、蛤までは見た事はない。それに、大工の善八のおかみさんの裸も毎日、見ていたが蛤には気がつかなかった。

「さあ、どっちなのよ。あたしの方が小さいでしょ」

 藤吉は手に持った蛤とスズメ姉さんの蛤を比べて見た。スズメ姉さんの方が大きいと思ったが、スズメ姉さんが睨んでいるので、「小さいです」と答えた。

「ほらね」とスズメ姉さんは満足そうに笑って、着物を降ろした。

 目の前にあった蛤は白昼夢だったかのように消えてしまった。もう少し見たかったと思っていると、今度は、ツバメ姉さんが着物をまくって、藤吉に蛤を見せた。

「ほら、あたしの蛤、おいしそうでしょ」とツバメ姉さんは指で自分の蛤を摘まんで見せた。ツバメ姉さんの蛤は生きがいいのか、濡れて光っていた。

「なに言ってんのよ。あたしの方が新鮮なのよ」と次々に女たちは着物をまくって見せた。

 藤吉は目が眩むかと思うほど、頭に血が上って呆然となった。目を丸くして、ぼうっとしている藤吉を眺め、女たちはキャーキャー笑いながら、家の中に引っ込んで行った。

 姉さんたちの蛤を頭にちらつかせながら、藤吉は蛤を売るのも忘れて、新助の家に帰った。

「売れ残ったのかい。しょうがないねえ」とおかみさんは残った蛤を焼いてくれたが、どうしても食べる事ができなかった。


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ラベル:戦国の女性
posted by 酔雲 at 16:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説の中の名台詞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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