生駒家の娘、吉乃(きつの)に惚れていた藤吉郎(後の豊臣秀吉)でしたが、自分に自信のない藤吉郎はその事を告白できず、織田上総介信長に奪われてしまいます。悔しくて、泣きながら弓矢を放った後、藤吉郎は信長がいる吉乃の屋敷に戻ります。
朝日が東の空を染め始めた頃、上総介が吉乃の新居から出て来た。草履の向きが反対になっているのに気づき、庭を見て、しゃがみ込んでいる人影に気づいた。
「猿か」と上総介は呼んだ。
「はい」と藤吉郎はしゃがんだまま上総介の顔を仰ぎ見た。
「吉乃はわしが貰った」と上総介は言った。
聞きたくなかった言葉だったが藤吉郎は受け入れた。
「お前が吉乃に夢中だった事は知ってる。だが、わしも夢中になった。欲しい物は必ず手に入れるのが、わしのやり方じゃ。そうでなくては今の世は生きては行けんのじゃ」
「はい」
「お前の事は八右衛門からも、小太郎からも、三左衛門からも、吉乃からも色々と聞いた。お前は不思議な奴じゃ。お前の話をする時、みんな、楽しそうに話す。何となく気になる奴というのがいる。どこがどう気になるのかわからんが、何となく気になって、みんなの話題にのぼる。お前がそうじゃ‥‥‥吉乃はわしの側室にするつもりじゃ。吉乃もうなづいてくれた。どうじゃ、猿、わしの家来にならんか」
藤吉郎は上総介を見上げ、どう答えたらいいか迷った。自分を高く売り付けるため、すぐに返事をしない方がいいかもしれないと思った。しかし、上総介の顔を見ているうちに考えは変わった。この男と付き合って行くには、ごまかしは効かない。本音で勝負するしかないと思った。
藤吉郎は力強くうなづいた。
こうして、信長の家来になった藤吉郎は出世街道をまっしぐらに進み、天下統一を果たします。





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