2008年11月24日

愛洲移香斎の娘、桔梗の台詞

摩利支天の風〜若き日の北条幻庵 11.桔梗1」より愛洲移香斎の娘、桔梗の台詞


愛洲移香斎の娘、桔梗は一年間の風摩砦での武術修行が終わった後、師範代を務めた菊寿丸(後の北条幻庵)の部屋に来て、ぐいぐいと酒を飲み始めます。

「おい、ちょっと速すぎるぞ。もっと、ゆっくりと飲め」と菊寿丸は言いますが、「いいのよ。あたしはお酒、強いんだから」と桔梗は自分で注いでは一気に飲んでいます。

「そんなに飲んだら酔っ払っちまうぞ」と菊寿丸は桔梗からとっくりを取りあげます。

「あたしね、あなたに言いたい事がいっぱいあるの」と桔梗は酒盃(さかずき)を差し出します。

「言いたい事があるなら言えよ。酔っ払わなくちゃ言えないのか」

「そんな事ないわ。あたしが言いたいのはね。若い娘に色目なんか使うなって言いたいのよ」

「そんな事はしていない」

「嘘ばっかし。いずみちゃんに色目使ったでしょ。おこまちゃんにも色目使ったでしょ。おふでちゃんにも、おまさちゃんにも、おみのちゃんにも、おきみちゃんにも、おあいちゃんにも使ったわ。みんな、あんたに惚れちゃったのよ。あたしはもう、カッカ来ちゃって、あんたなんか消えちゃえばいいって思ったんだから」

「色目なんか使っちゃいないよ」

「嘘ばっかし。ねえ、早く注いでよ」

「酒癖、よくないぞ」

「何言ってんのよ。自分が何様だと思ってるのよ。あたしはねえ、悔しいのよ、あたしはいずみちゃんにも勝ったのよ。あの中で一番強かったのよ」

「知ってるよ」

「なのに悔しいのよ。あたしだけよ。あたしだけなのよ」

「何が、あたしだけなんだ」

「あたしだけ、あたしだけが男を知らないのよ。みんな、自慢気に男の話をするのよ。おゆらちゃんなんて遊女だったから色々な男を知ってたわ。他の娘だってそうよ。あの砦に入った時はまだ、あたしと同じ生娘もいたけど、出て行く時、生娘のままだったのはあたしだけなのよ。いずみちゃんだって生娘だったのに、源太郎の馬鹿に抱かれちゃうし、おたえちゃんだって小五郎の馬鹿といい仲になっちゃうし、おきみちゃんだって孫四郎の馬鹿と寝ちゃうし、あたしだって、いっぱい男が言い寄って来たのよ、けど駄目なの。どうしても駄目なのよ」

 桔梗は酒盃を差し出し、菊寿丸が注いでやると一息に飲み干して、「どうしても駄目なの。菊寿丸様じゃなきゃ駄目なのよ」と言います。

 菊寿丸は桔梗を抱き締めます。


中世女人曼荼羅  廣戸川 桔梗の舞  
ラベル:北条幻庵
posted by 酔雲 at 09:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説の中の名台詞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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